一枚板の天板加工
ストーリー
僕が修行中初めてこの作業を見た時は、まるで意味が分からなかった。
師匠の工場で自分の作業をしながら、師匠がやっているのを横目で見ていた。その作業はダイナミックで、あまりにも大胆で、はたしてそれで本当に精度が出せるのか疑問さえ感じた。
電気鉋という電動工具を使い、ためらいなくばりばり削っていくその手際の良さと、山盛りになっていく削りくずの山は、見ていて気持ちがいいくらいだった。
木工作業の基本であり、まず最初に行うこととして、材料の基準面を作る。
材木屋さんから仕入れた状態というのは、丸太をおおまかな厚みにスライスした板材であり、表面はざくざく、反ったり曲がったりしている。
その板材のひとつの面を平面に削り、それを基準にして直角の側面を削り出したり、厚みを出したりして、角材や天板を作るのだ。
それはその部材が小さくても大きくても同じで、最初の基準面には精度が求められる。
幅が狭いものなら専用の機械を通せば基準面は作れるが、例えばこの一枚板のような幅が広いものはその許容範囲を超える。そういう時にはどうするのかというと、手に持って操作する電動工具によって、ほぼ手作業によって基準面を削り出すのである。
もちろんそれにはノウハウがあって、また熟練しないと精度は出ないし、時間もかかる。
最近ではそれ用の巨大な機械を導入し、両面仕上げてくれる製材所もあるので、それを利用する木工家が多いみたいだが、コストがかかる。さてどちらを選ぶのか。
そのコスト分を値段にのせるのか、熟練して早くそして精度高く加工する腕を身につけるのか。
もちろん僕は後者を選んだ。なぜなら、師匠がやっていたその姿は文句なしにかっこ良くて、それが出来てこそ木工家と呼べるような気がしたからだ。
今では片面を半日、一日で両面仕上げることが出来るようになった。
その日依頼者のお宅へ伺うと、幅900以上、長さ2000前後、厚み100の楠の一枚板が5枚あった。
近所にあった樹齢50年以上の楠の大木が切り倒された時に譲り受け、その後10年間、誰も仕上げを引き受けてくれる人がいなくて放置してあったという。
仕上がって納品の時に、すごく喜んでおられた。
どの場所にどのように置くかを大体聞いていたので、ただ両面を削るだけでなく、多少デザインしたからだった。
最後の一枚は特にこのお客さんの希望がはっきりしていたところ。
他の方にもお勧めして欲しいと言っておられたので、書いておく。
押し入れの空間利用で、棚を外し、ベンチを据え付けて部屋を延長するというもの。床と壁をこれからきれいにする計画らしい。