設計士デザインのダイニングテーブル
W2000×D800×H700
材質: タモ、ナラ
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
このテーブルはSIGNでデザインしたものではない。
大阪のストック建築設計事務所の設計士さんが、自分の設計した住宅に納めているオリジナルのダイニングテーブルで、しかも、本来僕に製作の依頼をされたものではなく、僕の家具の師匠にいつも依頼しているテーブルなのだ。
それを今回、ちょうど師匠が忙しい時期に注文が入ったので、師匠が僕に仕事を回してくれたという話。
そんなものを、自分の作品リストに上げていいのか。
そう言われるかもしれない。
しかし、この体験を記録せずにはいられなかったのだ。
師匠から電話がかかってきたのは、それまでの仕事がひと段落しかけていた時だった。
ちょっとややこしいテーブルやけど、お前ならできるやろ。
と言われさらに、そのギャラの額を聞いて僕は喜んで引き受けた。
材料はすでにあるというので、僕は久しぶりに師匠の工場を訪ねた。
天板にするタモの板を二人で木どりする。
作業はもちろん自分の工場でするのだが、車に積みやすいように、幅500、長さ3000の、カーブしている耳つきの板を、ある程度長方形にカットしておくのだ。
久しぶりの師匠との共同作業だった。
相変わらず手際がいい。
スミを入れ、なんの迷いもなく丸ノコが走っていく。
僕もここに通っていた数年前とは違い、なんとか師匠の速さについていっていた。
師匠にとっては当たり前のスピード。
それを修行中は憧れのまなざしで見ていた。
それが今、なんとかついていけていることに、自分も少し成長したのだと、同調している作業の心地よさを感じながら、僕も丸ノコを走らせていた。
二人ですればあっという間に、僕の方が少し遅れて、それぞれ一枚ずつ木どりを完了させた。
もらった図面を見ると、確かにややこしい。
これは標準語でいう「複雑」とは意味が違い、「やっかいな」というのが近いかもしれないが、やはりニュアンスとしては「ややこしい」だった。
二枚はぎの天板は電気鉋で平面をだし、脚部は天板に吸い付きざんで取り付ける。
その脚部も、幕板に45度ひねった形で脚がささっている。
さらにその脚から、45度の角度でスピンドルのような補強材が天板と脚とをつないでいる。
もちろんどこにもビスもボルトも使われていない。
加工の精度が命の構造なのだ。
脚と脚の幅も狭く、これで立つのかと思われたが、さすが設計士のデザインである。
この図面どおり作れば、計算上強度もバランスも大丈夫という作りをしていた。
そう、この図面どおり作れる技術をもってすれば、ということ。
シンプルな構造だけに、各部の精度は即強度に関わってくる。
久しぶりに木工の腕をふるって仕事している気がした。
どうしても作る側としては、簡略化や効率を考えてしまいがちで、
それがモダンデザインとして認められればいいが、ただの手抜きかどうかは作ってる本人が一番よく分かっている。
僕だって、ビスを一本も使わない仕事は最近少ない。
それはそれが構造上一番いいと思って選択しているつもりだが、よく考えれば、デザインをそっちに持っていっていると言えなくもない。
師匠のような人にはちゃんと、こういった仕事が入ってくるのだ。
こういう仕事が入ってくるような家具屋にならなくては。
久しぶりに木工家らしい仕事をし、改めて師匠の仕事を見直し、志は高く持たねばならぬ。
と、思った次第。