BMS/ダイニングチェア
W560×D530×H800 SH420
材質:ホワイトアッシュ
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
仕事がない時こそ作品を作る好機、とは言え、今までオーダーメイドにこだわっていることを言い訳に、自分から発想することを遠ざけていた。
オーダーが途切れることがなければ、仕事がないこと、とは休めるということ。
仕事があれば、休むことなく作り続ける性分なので、むしろ、そんな日を心待ちにすらしていた。
1月から3月は1年のなかでも仕事が少ない時期だ。
作品を作って売っている人は、ここで作りためておかないと、4月からのシーズンに品物がなくなってしまうので、貴重な製作期間として考えているらしい。
僕にはそんなサイクルはないので、ただ休めるという安堵の気持ちと、次に仕事が来るだろうかという不安な気持ちが交錯する複雑な時期なのだ。
しかし、この年は、僕にとって変化を求められている年だった。
その前の年、コストと効率を考えながら、とにかく仕事をこなすことで精一杯だった。
それでもそれでフル回転している自分に酔い、なんでもできる気になり、家具作家としての自分を認められたような気がしていた。
そこにもってきて年末のテレビ出演。なにもかもうまくいく気がしていたのに、結果は大恥をかくはめに。
それで僕は気づかされたのだ。
その年の僕のあり方にはなにかが欠けていたことを。
そしてこの年、工場を移転するかどうかの選択を迫られ、それには今後のSIGNのあり方を方向付けせねばならず、今までどうりやるのか、より別注家具の色を濃くするのか、逆に作品性を高めていくのか、それによって、工場や設備の必要性も違ってくる。
どうすればいいのか、何をすべきか。
僕はそんなことを考えながら、一脚の椅子を作っていた。
あるエステサロンのためにデザインしたBMSチェアが、SIGNの定番チェアになりつつあり、そのエステサロンの主宰であるLeeさんのために、特別に曲線を生かしたバージョンも作らせてもらった。
それを、毎年僕の家具の師匠が開催するイベントに出展したところ、一人のお客さんの目に止まり、このデザインでダイニングチェアを作って欲しいと言われた。
一脚だけ作るのはもったいないと、2脚同時に作りはじめたが、一脚を先に仕上げて納品した。
2脚目を仕上げる前に他の仕事が入り、また例のテレビ出演もあって、年が明けるまで手を付けていなかった。
心境の変化もあり、2脚目はとことん手間をかけて作り込みたかったのだ。
だからこの椅子は2つの意志が混在する不思議な椅子となった。
構造やデザインは、効率を考えた オーソドックスなものでありながら、体重の分散を考えた設計から得られる独特な座り心地、でありながら、ほとんど手で削り出した彫刻のような有機的な曲面加工。
この椅子を作りはじめた時のコンセプトからすれば、仕上げはあきらかにやり過ぎている。